第38回札幌国際スキーマラソン大会に参戦してきた
4年前にこの大会を知り、クロスカントリースキーを始めることにした。
機材を買う前に、エントリーを済ませた。
機材を買いに行ったショップの店員さんに参戦することを話したら、真顔で「死にますよ」と言われた。
「キツイですよ」とか「苦戦しますよ」では無く、「死にますよ」は強烈だった。
未だに覚えている。
舐めていたのだろう。ラン、自転車とやってきてクロスカントリースキーもどうなにかなると思っていた。
週2回のクロスカントリースキーの練習、大会までに6回程度滑って大会に挑んだ。
たった6回の練習で参戦した大会で、店員さんの言う通りになった。
何度も何度もスキー板を外して、歩いて帰ろうかと思った。深い森のなか、リタイアポイントは32km地点しか無い、そこまでたどり着いた時は既にボロボロの状態だった。
迷わずそこでリタイアを決めた。
クロスカントリースキーのイメージ、スイスイと雪上を進んでいくそんなイメージはそこにはなかった。
エンデュランス競技のなかでもトップクラスのハードコアさをもつ競技だった。
それから4年。
あのリタイア後、逃げ回っていた。リタイアの翌年は距離25kmと半分の長さのカテゴリに参戦、どうにか完走したものの感動は薄かった。その次の年は恵庭の大会に参加。
距離は30km。楽しかったがやはりどこかで初年度のリタイアについて払拭しきれていない自分がいた。
今年の正月に考えた。
再挑戦して、どんなに無様でも完走しなければ、次にすすめないと。
効果的な練習をしっかりと行って、万全の準備をして大会に臨む。
そして、完走して自信を取り戻す。
それをしなければ、なぜか次にすすめない気がした。
クロスカントリーは練習するのも大変だ。
週末は必ずコースに行くようにした。簡単にコースに行くと言っても、片道1時間はかかる。玄関をでた時からそこがトレーニング場になるランや自転車とはわけが違う。
それでも、量をこなさなければ身体は覚えてくれない。型を身体に染み込ませるためには量稽古しか無い。
結局、大会までに200km近いマイレージを確保した。
ワックスの処理、補給の研究、やれることをやった一ヶ月だった。
スタートは9時。
スタート地点まで軽く滑走テスト。ワックスのマッチングは悪く無い。悪く無いどころかかなり良い。
スタート直後から、ひたすら登る。ウェーブスタートの第二弾なので、まわりも同じレベル。ついていける、むしろ集団の中ではそれほど遅く無い方だ。
スキーが良いのか、自分のスキルが上がっているのかは不明だが悪く無い。
最初の登りのピークは軽々とクリアすることができた。
悪く無い。板も心なしか軽い感じがする。
そこからの下りのセクションは最高。雪面は荒れているがコントロールできるレベルだ。
クロスカントリースキーは板にエッジがないので、スピードコントロールは力づくで制御しなくてはならないが、この程度の雪面ならなんとかなる。
もっと抉れてくると難しいが。
下りのセクションがおわり、そこからは軽く登り下りはあるものの、割合フラットですすむ。
10km地点までは疲れは一切ない。バシバシ抜いていける。
バシバシ抜いていけるが、調子にはのらない。
今回は練習での教訓を生かして、10kmごとにシューズの紐を締め直すことにした。
シューズの紐が少しでも緩むと、板との一体感が無くなってしまってとたんにアンコントーラブルになってしまう。
板へ自分の意思が伝わらないと太もも、ふくらはぎの疲労が激しくなる。
なので、どんなに調子が良くても一旦立ち止まり紐を締め直すことにしたのだ。
17km地点からコースは牙を剥き始める、登らされて、その後激しい下り。ツイスティで荒れた雪面での下りは神経を使う。
登りで溜まった乳酸が流れる暇がない。
下りも足にしっかりと力をいれていなければ、とたんに転倒してしまうような雪面だ。
激しい登りと下りを繰り返し、どんどん疲労がたまってくる。
思考も鈍くなってくる。この状態になるのが想定より少し早い。困った。
と、ここでコースが白旗山に合流。
いわずとしれたクロスカントリースキーの名門コース。いままでと違い、雪面も綺麗で道幅も十分、ガシガシ攻めてすべることができる。
白旗山に来たってことは、前回リタイアの32km地点はすぐそこだ。
32km地点に到着。
全身に疲労はあるが、前回のような悲壮感は全くない。
トイレを済ませて、シューズの紐を締め直し、板を左右入れ替える。
これは練習の時に一緒にすべっていたおじさんに教わったテクだ。ワックスの美味しいところを最後まで使うために左右を入れ替えてやる。
32km地点から43km地点までが本当の地獄。前回のリタイアでは味わえなかった地獄、その地獄をいよいよ体験できる。
緩やかに終わらない登り区間が5km続く。日陰のため、雪はシャリシャリのシャーベット状。蹴り出しても微妙に板が沈む感覚でひと蹴りごとに疲労がたまっていく。
いい加減、うんざりしてきたところで登りの質がチェンジ。
今度は壁だ。
登山か、というような登りが次々に現れる。
板を外して歩いている人もでてくる。これはもはやクロスカントリースキーを履いた別の競技って感じだ。
板を八の字にして、黙々と登っていく。
心拍はとっくに無酸素運動ゾーンだ。汗が滝のように落ちてくる。
壁を突破する。すぐに次の壁だ。
無理して上を向く。とりあえずのピークを睨みつけて、そこをゴールとして登っていく。頭があげられなくなったら終わりだ。
フラフラになって、壁をのぼっていくと係員がいた。
『ここが最後だよ。あとは下りだよ』優しく微笑んでくれた。
そう、壁をのぼりきったらゴールまで残り7km。
その7㎞はなんと全て下りなのだ。
そこからは極上のクロスカントリースキーパラダイス。
高速で雪原を駆け抜ける喜びを堪能。羊ヶ丘公園の外周まで一気にくだってくる。
時刻は午後2時。穏やかな日光がコースを照らす。広い雪原を乳白色にそめる陽の光が美しい。
ああ、帰ってこれたんだと安堵する。
無事、5時間で完走。
キロ6分ってところだ。
トップの人はこのコースを2時間半前後で駆け抜けるので、この数字自体は鼻くそほどの価値しかない。
だが、目標をたててそれを遂行するプランを立案し、確実に実行する。
エンデュランサーして最低限の資質が自分にあったことを再確認できたことは、何物にも代えがたい価値だ。
本当に良かった。
まだまだ、いろんなことがやれそうだ。
それを認識できたことが最大の収穫だ。
これで次の挑戦に対して、自信をもって望める。
なんでもできるはずだ。
つるやたかゆき