F1 2016 スペインGP観戦記
ロシアGP直後のレッドブルグループ内の『人事異動』騒ぎの余波を受けていたスペインGP。ゴダゴダがグランプリに影響するかなーと思っていたが、待っていたのは極上のエンターテイメントであった。
とりあえず、ここまで5戦を消化する中で最高のレース。これを僕らは見たかったんだ。久しぶりに最後まで集中して観戦することができた。
この感覚、何年ぶりだ?2009年以来か?
もちろん、この面白さの正体は単純だ。スタート直後のメルセデスの同士討ちで、ロズベルグ、ハミルトンが揃ってリタイア。
現在のF1はフォーミュラメルセデスと、フォーミュラワンの2つのカテゴリを同時開催していて(大嘘)フォーミュラメルセデスの速さが尋常じゃなく、それゆえ僕らも退屈するわけで・・・
ハミルトンとロズベルグのクラッシュについては、ロズベルグのエンジンマッピングの選択ミスについても彼是言われているが、明らかにハミルトンの焦りが招いた結果であると言い切れる。開幕から僚友にコテンパにされる中、久々のポールスタートのチャンス。蹴り出しが悪くないものの、ライン取りが甘くロズベルグにスリップを使われて、結果第一コーナーで大外からオーバーテイクを許してしまう。
その焦りから、エンジンマッピングをミスって加速が伸びないロズベルグに強引にノーズを突っ込みカウンターを狙うが、ロズベルグは『ルール通り』の一度だけの進路変更でこれを防御。結果行き場をなくしたハミルトンは芝生にタイアを落として挙動を乱し同士討ち。
ロズベルグを仕留めるチャンスはいくらでもあった。
あそこで焦ることはない。
幸運だったのは(そしてメルセデス首脳陣を激怒させたのは)、同士討ちだった点だ。
ハミルトンは点差をキープ。ロズベルグは(合法とはいえ)下品なブロックとマッピングの選択ミスが有耶無耶になり、そして我々とフェラーリ、レッドブルは望外のシチュエーションが転がり込んできたのだから。
その後のレッドブル、フェラーリの4名のドライバーの競演は非常に見応えがあった。
クラッシュ後のSC明けからファイナルラップまで、ここまで魅せるレースも近年は珍しい。
レッドブルはインフィールドで速く、フェラーリはホームストレートで最高速を稼ぐ、好対照な両チームのセッテイングも相まって手に汗握る展開となっていく。
もちろん、レース後物議を醸した、レッドブルの明らかなマックス・ヴェースタッペンを優遇するタクティクスは理解不能なところもあったが、逆にあのお膳立てをしてもらったヴェースタッペンがシナリオ通りに作戦を遂行し、移籍一発目で優勝を勝ち取ることを誰が想像できただろうか。
移籍前は正直『レッドブル移籍より、トロロッソで王様になっていた方が今は良い』と考えていたが、そんな凡人の安定思考なんぞをあざ笑うかのようにこの若者はしっかりとリスクをとって、結果を出した。
シューマッハがジョーダンでデビューしたスパや、ヴェッテルのイタリアGPと匹敵する衝撃的な走り。
こういういかにもなストーリーを紡ぐことができるものが、いわゆるF1の『スターシステム』に乗ることができるのだろう。
それにしても、最後まで争っていたライコネンがヴェースタッペン親子とバトルをしたという事実。F1の低年齢化も来るところまで来たかという感じである。
だが、これではっきりしたことはF1は決して特別な乗り物ではなく、むしろ才能のあるものにとっては下位カテゴリは邪魔な回り道にすぎないということである。嬉しいような寂しいような不思議な気持ちがするが、これもレーシングである。
一方で、フェラーリにとってはこの結果は非常に厳しいものとなってしまった。
メルセデスへの挑戦権を優先的にもっているのは跳ね馬だと誰もが思っていた中で、この体たらく。
レッドブルのPUはフェラーリより遥かに劣るルノー製、空力が重視されるバルセロナのトラックということを差し引いても、フェラーリのマシンが王座を狙うにはまだまだなことが証明されてしまった。
タクティクスも悪かった。ヴェッテルは作戦ミスで勝負権を失い、ライコネンは空力のセットアップが悪く、頼みの第一コーナーでのオーバーテイクをする機会すら失われていた。
スペインGP前に代表更迭の話がメディアを賑わせたが、その直後のこの負け方。
すぐの話は無いだろうが、なんらかの動きがあってもおかしくはない。(更迭してもメリットはゼロだと思うが)
トップ2以外の話も少し書こう。
まずはマクラーレン。予選でアロンソがQ3進出を果たし、登り調子かと思われたがまたもやメカニカルトラブルでリタイア。母国で残念な結果となった。そしてアロンソが『もっていない』ことが証明されてしまった。
マクラーレンはアロンソと心中するのか。いまからでも遅くはない。開発ができるバトンを中心に、将来に向けてバンドーンを起用すべきだ。バンドーンを極東のフォーミュラで1年腐らせる方が損失はデカい。
アロンソの神通力はもう無い。
そして神通力がなくなってきたのはハースも同様。
開幕二戦で見せた思い切りの良さがすっかり無くなった。見せ場がないままレースが終わってしまった。
コンサバティブなレース戦略を行うだけのボトムスピードは明らかに無いのだから、どこか得意分野に特化した戦略が見たい。
ヨーロッパに帰ってきたF1は、今後開発スピードが飛躍的に伸びる。
その中で振り落とされないようどこまで踏ん張れるのか。次戦モナコは特殊なコースレイアウトもあり、従来の戦い方が全く通用しないレースとなるので、そこでのハースがどんな戦いをするか見てみたいものだ。
兎も角、皮肉なことに現在トップを独走するメルセデスがいなければここまでレースが面白くなることが証明された一戦だった。
この調子だと、ポイントに比例したウェイトハンデ論争が再燃することも考えられる。
レッドブルの若い才能と、跳ね馬のプライドにストップ・メルセデスを期待したい。
つるやたかゆき