ハネムーンの終わり。マクラーレン、未来へのサバイバル
2015年、燦々たる結果に終わったマクラーレンが組織改革である。
VWのモータースポーツプロジェクトの総責任者であった、ヨースト・キャピトのヘッドハンティングに成功。
ヨーストはWRCまわりのプロジェクトを成功させていたことで知られているが、昨年発生した、いわゆる『VWゲート』の進展次第ではVWグループのモータースポーツプロジェクトは根本的な見直しを迫られることから、今回のマクラーレン入りを決めたと思われる。
そこまでは、個人の資質をいかした転職活動ということで非常に自然なものであるが、ヨーストのマクラーレンでの仕事初めについて、VWが非常に協力的なことが今回の特徴といえる。
通常こういった移籍問題に関しては、元の雇用主はアレやコレやと妨害してくるのが常だが、今回の件に関しては両者ともが不気味なほどに協力関係にある。
まるで、『VWゲート』の件がおさまるまでマクラーレンで預かっていてよといった感じだ。
もちろん能力的には問題ない人物なのだが、マクラーレンはヨーストの能力以上のもの、すなわちVWとの強力なコネクションまでを手に入れたように思える。
すなわち、複数のメディアも指摘しているが来るVW−アウディグループのF1参戦に向けてのジョイント役としてのマクラーレンという構図である。
VWのF1参戦は昨年、レッドブルのエンジン問題のさかんに報じられたが、『VWゲート』の件で立ち消えになっている。
だが、WRCで成功を収め(参戦メーカーは少ないものの)プロトタイプでもアウディ、ポルシェが同士討ちが発生している状態で、次の挑戦としてF1は依然、有力なものとなっていることは想像に難くない。
おそらくレギュレーションにそった基礎研究はそうとう進んでいるのだろう。
ジョイント先は当初レッドブルが有力とされていたが、今回の人事交流でマクラーレンが最右翼に躍り出た。
エンジンメーカがワークスチームを持つことが当たり前の今のF1において、この動きがとれるのはマクラーレンならでは強みである。
そして、エンジンメーカの中で唯一ワークスチームを運営しないホンダは大打撃である。
いつでもマクラーレン側から三行半を突きつけらる状態なのだ。
今までは、マクラーレン側の選択肢の少なさに胡座をかけていたが、この人事交流で形勢は一気に不利となってしまった。
もはやF1ファンの間では伝説となっているエピソードだが、マクラーレンは90年代にホンダと別れた後に、ようやく現れたワークスエンジン供給者であるプジョーとわずか一年で離婚をしているのである。
彼らは生き残るために、見栄を意識していない。
考えられる最善を尽くすのみだ。
そして、これはホンダに対する最高レベルの警告になっている。
昨年、マクラーレンはホンダに『人材をヘッドハンティングして、技術レベルを上げろ』と要求を突きつけた。
ホンダ側はこれをプライドの高さから拒否したが、要求した当人が外部から人材を招聘してしまった。
マクラーレン側の本気がホンダに伝わっただろうか。
ちなみに、マクラーレンに振られたプジョーは、その後2流チームと結婚・離婚を繰り返し静かに撤退していった。
さて、ホンダはこの結婚生活を守れるだろうか。
2016年シーズン開幕まであと少し。
つるやたかゆき